本来、「おやつ」という概念は、人以外にはありません。人以外の生き物は、お腹がすいたら必要なだけ食物を食べるだけです。ところがネコは人に飼われるようになり、現在では使役動物ではなく、愛玩動物として扱われています。そして、愛玩動物化したネコは、食生活の乱れを無視できなくなってきています。動物が健康でおやつの量も許容範囲内であり、問題行動も起こしていなければ、獣医は別にあまりうるさいことをいいません。しかし飼い主のおやつのあげすぎが原因で、ネコの体に問題が発生している場合は、断固制限するよう指導します。特に以下の2つの理由で、飼いネコに必要以上のおやつをあげている飼い主が多く見られます。おやつを留守番やしつけなどのごほうびとして与えている。ネコ社会での上下関係は、食べ物によってつくられるものではありません。ボスである飼い主が「よしよし」となでて抱きしめてあげるだけでもネコは十分幸せであり、使命を遂行した満足感を得られます。食べ物でいうことをきかせる方法は、しつけのきっかけに使うならともかく、ずっとそのままでは、いつか愛想をつかされます。人間でいえば、「孫の歓心をおこずかいで買うおじがちゃん、おばあちゃん」、もしくは「援助交際」と同等です。ボスと部下は、ものに頼らない厚い信頼で結ばれていなければなりません。どうしてもおやつに頼らなければいけない場合は、最低限に抑えるように意識してください。
来院するたびに「健康とダイエット」の話をしているのに、一向にやせないぺットがたくさんいます。伺い主に尋ねると、飼い主や家族がどうしても欲求に勝てず、ネコにおやつを与えてしまうとのこと。ロをそろえて「ほしがっているのにあげないなんてかわいそうで……」といいますが、食べすぎて体を壊すほうがもっとかわいそうです。ネコは栄養価にすぐれたキャットフードをもらえていれば、それで十分幸せな部類に人るのです。しかし理屈で説明しても、どうしても聞き入れてくれない人がいます。残酷な表現ですが、心を病んでいる人がぺットにおやつを与えることで心の安定を保てるのであれば、そのネコは飼い主の心の隙間を埋めるものとしての役割を十分に果たしているのかもしれません。いずれ早期に生活習慣病のたぐいになることを警苦しますが、こういう伺い主が相手の場合、改善しないことが多いのが現状です。
おやつは一般に栄養バランスを無視して、とにかくおいしくなるように開発されています。ネコの中には、一度極上の味を覚えてしまうと、二度とふつうのキャットフードを食べなくなるものもいます。中高年以降、内臓のどこかを患って処方食を食べなくてはいけなくなったときも例外ではありません。へたをすると、死に直結する問題に発展します。病的な肥満状態にあるネコも、おやつ食べ放題である場合がほとんどです。乾燥した保存食であるドライキャットフードや、加熱滅菌された缶詰と違い、おやつや半生キャットフードは、ソフトな食感がウリの製品もあります。しかしこれらは、着色料や保存料など人工的な物質が山盛りになっていると考えてください。健康に配慮して添加物を抑えたと称する商品もありますが、人の食べ物でさえ偽装が堂々とまかり通る世の中です。なにが入っているか見た目ではわからない以上、食べずにすむならそれが一番よいのです。胃腸が弱いネコだと、丸飲みしたジャーキーやガムがなかなか消化されずに、腸に詰まってしまうことがあります。もちろん最終的には溶けるのですが、その前に腸を激しく損傷してしまい、壊托することもあります。特に、食べ物由来でなにか既往歴があるネコには、十分な注意が必要です。とかく人間の食い道楽の考え方を動物にあてはめがちですが、この世にもっとおいしい食べ物があることを教えなければいいだけです。いろいろな物を食べる楽しみを得れば、同時にさまざまな病因をも取り込むということを理解してください。
また、「加熱すると栄養素が壊れてしまうので生肉を与えるとよい」とする説も見かけます。確かに野生では、獲物は生です。お腹を壊さないようなら生肉を使用してもいいでしょう。しかしそれをいうなら、野生では生のまま獲物の内臓も食べます。内臓から骨髄までかみ砕いて食べて初めて、野生に近い生食を実現したといえるでしょう。しかし、一般の家庭でこれはまず無理です。ということであれば、生の筋肉だけを与えることにそれほど固執する必要はないと思います。どうしても生肉を与えたいのであれば、鮮度と衛生面には十分注煮してほしいところです。せっかくの手づくりキャットフードなのですから、いろいろなメニューを楽しませてあげたい人がいるかもしれません。しかし水を差すようですが、使用する材料が多いほど、そのネコに合わない食材を使ってしまう確率が高くなります。香味野菜やアクの強い食材は、人にとっては食欲増進やそのほかの健康効果をもたらす場合があります。しかし々ヌにとってはそのほとんどが無用、もしくは逆に体調を崩す原因になりかねません。使用する材料の選択基準として簡単なのは、市販のキャットフードに使われている食材、もしくはそれに類仰する食材だけに限定するということです。試しにキャットフードを食べてみればわかりますが、われわれが感じるようなうまみや風味とはまったく無縁のそっけない味です。手づくりのキャットフードは、人間の嗜好に似た料理になってしまかがちですが、獣医の立場からいわせてもらえば、市販のキャットフードでは不可能な、そのネコに合わせた特別仕様のご飯を与えたいからわざわざ手づくりするわけです。
ネコの「食餌性アレルギー」の診断は難しいのですが、経験則によって症状からある程度はわかります。食餌性アレルギーが引き起こすもっともメジャ一なものが、「アレルギー性皮膚炎」です。個体によって症状に多少の差はありますが、目の周りや口の周り、外耳道が、ふちどったように赤く炎症を起こして、脱毛とかゆみがある場合などは、食餌性アレルギーを疑います。食餌性アレルギーは、内服薬(抗アレルギ一治療薬)の効き目が鈍いことも多く、やっかいです。食餌性アレルギーへの対処法は、基本的に「疑わしいものを排除してみる」ことです。主食は1銘柄に絞り、それ以外のおやつは一切なしにします。水分はふつうの真水だけで、牛乳などは禁止です。これでも改善しなければ、主食の内容を変えて反応を見ていきます。ふつうのキャットフードは、いろいろな原料からつくられています。栄養のバランスをとるには、なるべく多くの種類の食材を盛り込むほうが望ましいのですが、それは同時に、そのネコにとってのアレルゲンに遭遇する確率が高まることでもあります。そこで、使用する食材を限定し、バランスがおよばない部分は各種の栄養添加剤で補った「除去食」と呼ばれるキャットフードが考えられました。除去食は、キャットフードメーカー各社から製品がでています。除去食を使用することでアレルゲンを回避できれば、症状の改善が期待できます。